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- カテゴリ: 本よみ松よみ堂バックナンバー
- 2016年4月24日(日曜)09:00に公開
- 作者: 奥森 広治
災害支援を考える「ヒント集」。ネットで公開中
災害支援手帖 荻上 チキ 著
3月1日に発売されたばかりの本だが、「大きな災害が起こった場合には、全文をネット上で公開する」という著者と出版社の契約のため、今回の熊本・大分の地震を受けて、早くも全文が公開されている。著者・荻上チキさんのツイッターなどにリンクが張られている。
TBSラジオの「荻上チキ・セッション22」(平日午後10時~深夜1時、金曜日は0時まで)を聴いてこの本のことを知った。
たまにTBSテレビの「サンデーモーニング」にも出演しているので、荻上チキさんのことをご存じの方も多いと思う。肩書きは評論家。1981年生まれと若いのに、データや情報をもとに物事や事象をより正確に、冷静に捉えようとしている姿勢にいつも感心している。同書は主に東日本大震災の取材と民間ボランティア団体やNPOへのアンケートをもとに書かれたもので、5年をかけた労作である。恐らく東日本大震災の発災から5年目の3月に間に合わせるように発行されたのだと思うが、皮肉にも直後にまた大きな震災が九州で起こってしまった。
同書が提案しているのが「支援訓練」だ。「これからも、私たちは何度も、『支援する側』という立場を経験することでしょう。『支援の準備』を進め、『支援の練習』をしていけば、順番に、互いに助け合うことができるようになるでしょう」「東日本大震災で体験した成功や失敗は、災害支援をバージョンアップさせるための大事な教材となります。この本は、そんな教材を集めた『ヒント集』です」「この本は『正解集』ではありません。効果的な災害支援はタイミングや季節、地域、支援される人によってすべて違ってきます。『必ずこれをやりましょう』とはなかなか言えません。でも、事例について知ることで、『今回はどういう支援がいいだろう』と深く考えることができるようになるでしょう」(「まえがき」より)。
ボランティアという言葉が強く意識されるようになったのは、1995年の阪神・淡路大震災からで、「ボランティア元年」とも呼ばれた。それ以降、多くのボランティア団体ができ、NPO法人も生まれた。しかし、当時は「いてもたってもいられず」現地に入った人たちがいる一方で、被災地にボランティアを受け入れる体制も整備されておらず、混乱をきたしたということもあった。支援物資にしてもしかりである。
現地のニーズは日一日と変わり、タイミングよく物資を届けるのは難しいという。ニーズやタイミングを間違うと「支援ゴミ」になってしまって、処理費用など被災地に余計な負担を負わせる結果になってしまう。かといって、現地で何が必要なのかという情報を正確に把握することは一般の人には非常に難しい。「何が必要か」などと現地の役所などに問い合わせの電話が殺到すると被災地対応に忙しい現場の職員に負担と迷惑をかけてしまう。
ひとつの事例として、杉並区の対応が紹介されていた。東日本大震災直後に杉並区には被災地に物資を届けたいという問い合わせがたくさんあったという。区では状態のいい物資を寄付してもらい、公園などでバザーを開催。売上を義援金として福島県南相馬市に届けたという。
そう考えると、やはりまずは募金や義援金というのが一番いいのかな、とも思う。同書には義援金と支援金の違いについても解説されていたが、お恥ずかしながら私は知らなかった。ちなみに、被災した人たちに直接配るのが義援金で、被災者を支援している人たち(支援団体)を支えるのが支援金。義援金はどうしても被災者の手に渡るまでに時間がかかるという側面があるという。
同書にはこのほかにも様々な支援の方法が紹介されている。まだ支援が必要なのにもかかわらず、時間が経つと人もお金も来なくなることなど課題をあげるほか、良くない困った支援の例や難点についてスポットを当てるなど、これまでの災害の経験から学ぶべき点を上げ、考えるヒントを提示してくれている。