くちびるに歌を:DVDジャケットの写真

日曜日に観たいこの一本

くちびるに歌を

長崎県の離島・中五島中学校。産休に入る音楽教師・松山ハルコの代用教員として、ハルコの中学時代の同級生、柏木ユリが数年ぶりに故郷に戻ってくる。東京でピアニストとして活躍していたという美人の柏木に興奮する生徒たちをよそに、柏木はなぜか冷たい態度で頑なにピアノを弾こうとしない。嫌々合唱部の顧問になった柏木は、もともと女子だけの合唱部に男子を入部させ、混声での全国コンクール出場を独断で決めてしまい、女子生徒たちの反発を買う。

そんなある日、柏木は課題曲の「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の練習のため、「15年後の自分へ手紙を書く」という宿題を出す。

責任感が強い部長のナズナは、なぜか祖父母と暮らしている。美声の持ち主サトルは障害者の兄を持ち、兄の面倒を見るために練習に来られない日がある。柏木は、明るくふるまう15歳の生徒たちが、実は誰にも言えない悩みを抱えていたことを知る。

ハルコが柏木を生徒たちに紹介するシーン。生徒たちに慕われ、実は心臓が弱いのにこれから出産に挑むハルコの自信に満ちた笑顔と、柏木の仏頂面が対照的だ。同じ年であるはずなのに、ハルコのほうがすいぶん大人に見える。

でも、柏木の気持ちも分かる。東京でピアニストをしていたぐらいだから、彼女が子どもだった頃、狭い田舎の島では、さぞや有名人だっただろう。

五島は美しい。以前に旅行したことがあるが、漁港にたたずむ木造の教会が印象的だった。人々の暮らしの中に溶け込んだキリスト教の文化。

くちびるに歌をの写真

美しい風景と、ある種の息苦しさ。これが田舎だと思う。

柏木とナズナは柏木が赴任する前に教会で出会っている。日常として教会に来ているナズナの目に、ひとり教会の席に座る柏木の背中が映る。柏木も何かをかかえているのだ。
アンジェラ・アキさんの名曲「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」を初めて聴いた時、この曲を贈られた今の中学生たちは幸せだな、と思った。自分が15歳の時にこの曲を聴いたら、どんなことを思うだろうかと。

監督=三木孝浩/原作=中田永一「くちびるに歌を」(小学館刊)/主題歌 =アンジェラ・アキ「手紙 ~拝啓 十五の君へ」/出演=新垣結衣、木村文乃、桐谷健太、恒松祐里、下田翔大、葵わかな、柴田杏花、山口まゆ、佐野勇斗、室井響、渡辺大知、眞島秀和、木村多江、小木茂光、角替和枝、井川比佐志/2015年、日本   

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「くちびるに歌を」DVD税別3800円、発売元=アスミック・エース/小学館、販売元=ポニーキャニオン