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- カテゴリ: 日曜日に観たいこの一本バックナンバー
- 2014年7月27日(日曜)09:00に公開
- 作者: 戸田 照朗
日曜日に観たいこの一本
ある愛へと続く旅
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を題材にした作品。
ローマで再婚した夫と16歳の息子ピエトロと暮らすジェンマのもとにサラエボの旧友ゴイコから電話がかかってきた。ジェンマは息子を連れてなつかしい彼(か)の地を再び訪れる決意をする。
ゴイコに再会したジェンマは昔語りをするうち、やがて思いもよらなかった真実を知ることになる。
若き日、ジェンマはサラエボに留学していた。そしてガイドを頼んだゴイコの紹介でアメリカ人の写真家ディエゴと知り合う。一目見た瞬間からジェンマとディエゴは恋に落ちた。ゴイコの友達はみな夢を持ち、青春を謳歌していた。心配事はもうじき行われるオリンピックの前にちゃんと雪が積もるかどうかということぐらいだった。
やがて結婚したジェンマとディエゴはローマで暮らし始める。二人は子どもを持つことを熱望していたが、ジェンマの体に問題があり、出産に至らなかった。このことが二人の間に溝を生むことに。ディエゴは生活のために写真を撮ることにも不満を持っていて、ある日単身サラエボに戻っていった。サラエボでは民族紛争が激しさを増し、その様子はローマでも連日報道されていた。ジェンマもディエゴを追ってサラエボへ。現地で人道支援活動に従事するようになる。
戦場でも二人は子どもを持つ夢をあきらめきれずにいた。ゴイコの紹介でミュージシャンを目指すアスカに代理母を頼むことになった。そして生まれたのがピエトロだ。二人は生まれたばかりの息子とともに帰国しようとするが、ディエゴがパスポートを持っておらず、ジェンマと息子だけが帰国することに。まさかこれがディエゴとの永遠の別れになるとはジェンマも思ってもいなかった…。
ジェンマを演じたべネロぺ・クルスはスペインを代表する女優だという。女子大生から中年の母親までを演じているが、とても自然に時の流れを演じ分けている。監督のセルジオ・カステリットはジェンマの再婚した夫としても出演している。
ゴイコとジェンマの愛とも友情ともつかない関係、そしてアスカとディエゴのこれまた愛とも友情ともつかない関係も心に残るものがあった。ヨーロッパ映画は、こういう人間関係の機微にとても優れた美点を持っていると思う。
見終わってしばらく心をめぐらせたのがディエゴの心境だった。彼の葛藤と苦しみ、そして愛が、映像では描かれなかった部分まで心に迫ってくる。まるで小説の行間を読むように。
戦争の残酷さ、理不尽をつくづく思う。
監督=セルジオ・カステリット/出演=べネロぺ・クルス、エミール・ハーシュ、アドナン・ハスコヴィッチ、サーデット・アクソイ、ピエトロ・カステリット/2012年、イタリア・スペイン
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DVD「ある愛へと続く旅」、発売元=コムストック・グループ、販売元=パラマウント・ジャパン、税別3980円、発売中