かぐや姫の物語:DVDジャケットの写真

日曜日に観たいこの一本

かぐや姫の物語

 宮崎駿と並ぶスタジオ・ジブリのもう一方の雄。高畑勲監督14年ぶりの長編アニメーション。

 「姫の犯した罪と罰」…。作品解説を読んでいて飛び込んできたこの言葉。かぐや姫はなぜ地球に現れ、なぜ泣く泣く月に帰らなければならなかったのか、という、この物語に最初に出会った時に感じた、原作の中では一切語られず、ずっとすっきりしないまま幼心に残ったままの疑問に対する、この作品なりの答えが隠された言葉だ。

 しかし、作品を見て私が感じたのは「翁(おきな)」が犯した罪と罰だった。

 この作品では原作には語られていない姫の少女時代が語られる。光る竹の中から発見されたかぐや姫はおじいさんとおばあさん、つまり竹取の翁・媼(おうな)夫妻に引き取られて大切に育てられる。やがて、捨丸(すてまる)ら悪童たちと知り合った姫はいっしょに野山を駆け回るように。それは経済的には豊かではないけれど幸せな少女時代だった。そして、捨丸に対して芽生えたほのかな恋心。

 姫の養育費とばかりに竹林から金銀がザックザックと出てくるのを見た翁は、「高貴な姫に育てよ」との天からの啓示だと強く信じるようになり、ありあまる資金をもとに都に屋敷を建て、引っ越していった。それからの姫は「籠の鳥」である。
高貴な方(つまり金持ちのボンボン)と結婚することが姫の幸せだと信じて疑わない翁と、姫が望むのはそんな結婚ではないと気付いている媼。やがて、屋敷での唯一の理解者は媼だけとなってゆく。

 どこか、現代の物語を見ているようだ。会社の中で組織人として生きてきた父親は(自分にとっての)常識を子どもに押し付ける。今は少しは価値観も変わってきたかもしれないが、高度経済成長期を経験した私の父親世代には、こんなお父さんがたくさんいた。で、家庭の中で理解者となってくれたのは母親だった。こんな家庭が、当時いっぱいあったような気がする。

 姫には、ある日の満月の夜に月からお迎えが来るわけだが、翁はここでも財力に物を言わせて傭兵を雇って追い返そうとする。が、月からの使者の力に人間がかなうわけがない。ここには、翁の傲慢、思い上がりが見える。月の使者を「自然」に置き換えると分かりやすい。私たちは先の大震災、そして原発事故が起こるまで、自然の力を侮ってはいなかっただろうか。

 この翁の声は故・地井武男さんである。高畑監督は絵に合わせて声優が声をあてる「アフレコ」ではなく、世界で主流の、先に声優が声を入れて、画を後で制作する「プレスコ」を採用している。この方が声優が生き生きと演じられるからだ。録音は2011年夏で、地井さんの最初で最後の声優出演となった。
画は水彩画のような淡いタッチ。むしろ、この方が制作は難しいのではないかと思うが、監督の強いこだわりなのだろう。

 監督=高畑勲/声の出演=朝倉あき、地井武男、宮本信子、高良健吾、高畑淳子、立川志の輔、伊集院光、中村七之助、朝丘雪路、田畑智子、上川隆也、宇崎竜童、橋爪功、仲代達矢

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 「かぐや姫の物語」、ブルーレイ税別6800円、DVD(2枚組)税別4700円、発売元=ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン