とらわれて夏:DVDジャケットの写真

日曜日に観たいこの一本

とらわれて夏

 実話の映画化。

 夫との離婚により心に深い傷を負ったアデルは、13歳の息子のヘンリーを頼りに暮らしている。情緒不安定で外出もままならず、買い物は主にヘンリーの役目だ。めずらしく二人一緒に買い物に出かけたある日、ホームセンターで偶然出会った逃亡犯のフランクに強要され、彼を自宅に匿うことになってしまう。

 決して危害は加えないと約束したフランクは、家や車を修理し、ヘンリーに野球を教える。そして、どこで習ったのか料理がうまく、美味しいピーチパイを作る。やがてヘンリーはフランクを父のように慕い、アデルもフランクに惹かれていく。

 原題のLobor Day(労働者の日)は9月の第一月曜日で祝日。翌日の火曜日から新学期が始まる。これは夏休みの終わりの数日を描いた物語だ。1987年、思春期のヘンリーの目線から見た物語で、そういった意味でも原題には意味がある。先日「チョコレートドーナッツ」という別の映画を見たが、こちらは小道具として使われたチョコレートドーナッツが邦題になっていた(原題はANY DAY NOW)。本作もいっそのこと「ピーチパイ」とでもすればよかったのに、と思う。ピーチパイが大切な小道具の一つになっているのだ。

 

とらわれて夏の写真

 脱獄犯が家にいるという緊迫感の中、母子の微妙な心理の変化がうまく描かれている。母親役のケイト・ウィンスレットのおばさんらしい、ゆるんだ身体と乱れた髪が、生活の疲れや不安、寂しさを表しているようで、演出のためにわざとなのか、と思わせるほどだ。単なる深読みで、本当はただの中年太りなのかもしれないが、そう考えたくなるほど印象的だった。

 最初はストックホルム症候群(誘拐や監禁の被害者が犯人と長時間過ごすことで過度な同情や好意を抱くこと)なのかとも思ったが、劇中に挿入されるアデルとヘンリーの過去の物語が進むにつれ、この二人の愛情は普通の男女の愛情なのだと思えてきた。

 緊迫感の中、上映時間はあっという間に過ぎ、気がつけば涙していた。

 監督・脚本・製作=ジェイソン・ライトマン/出演=ケイト・ウィンスレット、ジョシュ・ブローリン、ガトリン・グリフィス、トビー・マグワイア/2013年、アメリカ

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 「とらわれて夏 ブルーレイ+DVDセット」、発売元=パラマウント・ジャパン、税別4700円、発売中