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- カテゴリ: 日曜日に観たいこの一本バックナンバー
- 2016年3月27日(日曜)09:00に公開
- 作者: 戸田 照朗
日曜日に観たいこの一本
ジャンゴ 繋がれざる者
アメリカ大統領選挙で、共和党の候補者争いを独走するトランプ氏に対して各地で激しい抗議運動が起きている。「メキシコとの国境に万里の長城のような壁をつくる」といった極端に差別主義的な言動が反発をかっている。一方で泡沫候補と目されていたトランプ氏が、今や共和党候補の本命となっている背景には、トランプ氏の言っていることが実はアメリカ(白)人の本音だからだと指摘する声もある。
南北戦争から150年が経った今でもアメリカに根強く残る人種差別問題。本作は、黒人奴隷が人としての扱いを全く受けていなかった時代の西部を舞台にしている。
副題の「繋がれざる者」とは自由の身となったジャンゴのことを表している。賞金稼ぎのシュルツに助けられたジャンゴ(ジェイミー・フォックス)は腕を磨き、賞金稼ぎの仕事を手伝いながら、カルビン・キャンディの農場に売られた妻を取り戻そうとする。言葉が適切かどうかはわからないが、深刻な時代背景でありながら、「必殺仕事人」のような痛快さもある作品だ。
今年の第88回アカデミー賞は主演男優/女優賞、助演男優/女優賞の候補計20人がすべて白人で、2年連続で黒人俳優はひとりも選ばれなかったことに抗議して、黒人映画監督のスパイク・リーがアカデミー賞のボイコットを表明したことでも話題となった。
その主演男優賞を受賞し、話題となったのが「レヴェナント 蘇えりし者」のレオナルド・ディカプリオだ。彼は20年以上、様々な話題作、ヒット作に出演しながら、一度もオスカーを手にすることがなかった。最近では、悪役、汚れ役にも挑戦して、これでもか、と言わんばかりの奮闘を見せてきた。本作でも、冷酷非道な農場主カルビン・キャンディを怪演している。「タイタニック」で人気となり、「レオ様」と若い女性にキャーキャー言われていた人と同じ人物とは思えない。
そのキャンディの忠実な奴隷頭スティーブン(サミュエル・L・ジャクソン)が、不気味な存在として印象に残った。
スティーブン自身奴隷であり、黒人である。しかし、だからといって、黒人奴隷の味方というわけではない。用心深く慎重で、目の利く、この奴隷頭がシュルツとジャンゴを窮地に追い込んでいく。彼にとって一番大切なのは、主人のキャンディのようなのだ。そのメンタリティがよく分からない。
逆に、ジャンゴを助けたシュルツは非常に公正な人物として描かれている。ドイツ出身の元歯科医。当時の先進地から未開の国アメリカに来た人物。彼の背景はあまり語られないが、どうしてこのような人物になったのか、興味をそそられる。
なお、本作は第85回アカデミー賞で脚本賞と助演男優賞(シュルツ役のクリストフ・ヴァルツ)を受賞している。
監督・脚本=クエンティン・タランティーノ/出演=ジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ、レオナルド・ディカプリオ、サミュエル・L・ジャクソン/2012年、アメリカ
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