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- カテゴリ: 日曜日に観たいこの一本バックナンバー
- 2016年4月24日(日曜)09:00に公開
- 作者: 戸田 照朗
日曜日に観たいこの一本
君が生きた証
やり手の広告宣伝マンのサムは大きな契約をまとめ、祝杯をあげようと大学生の息子ジョシュを強引に呼び出した。ところがジョシュは店に現れず、店のテレビに映し出されたのは大学で起きた銃乱射事件を伝える速報ニュースだった。テレビのレポーターが自宅まで押しかけてきた。この事件でサムは一人息子を失ったのだ。
2年後、サムは会社を辞めて波止場のボートで世間から隠れるように暮らしながら、塗装業で生計を立てていた。高級車を乗り回していた派手な生活からは一転、今は自転車で現場に通う日々。そんな彼のもとを別れた妻が訪ねてくる。妻は新しい夫との間に子どもができ、再出発ができたようだった。そして、渡されたのは、生前にジョシュが書き溜めていた自作曲の歌詞とデモCD。ジョシュが遺したギターでジョシュの曲を爪弾くようになったサムは、素人が出演するライブバーのステージでジョシュが遺した歌を歌うようになる。
酔客の喧騒の中、サムの歌声に興味を持ったのがクエンティンという息子と同じ年頃の青年だった。「あの曲はもっと多くの人に聴かせるべきだ」と力説するクエンティンに押し切られ、サムは二人でステージに立つようになる。
新しい生活を始めている妻に比べ、いまだに2年前の闇の中にいるようなサムの暮らし。息子を亡くした悲しみは同じだとしても、やはりこんな時、男のほうが長く深く引きずるのか…などと考えていたら、息子の死の真相が明らかになってくる後半に及んで、物語の見え方がガラリと変わってきた。ここに来て、やっとサムの悲しみの深さ、やりきれない思いが分かる気がした。最初はもっと単純に泣ける映画なのかと思っていたら、どっこい思いは複雑である。
学校での銃乱射事件はアメリカでは現実に何度も起きている。こういう社会問題や見たくない現実を、うまく作品に織り込んでいける点でアメリカ映画はすごいな、と思う。日本映画では難しいような気がする。
全体的には、音楽を奏でるシーンも多く、穏やかな気持ちで見ることができる作品になっている。
監督=ウィリアム・H・メイシー/脚本=ケイシー・トゥエンター、ジェフ・ロビンソン、ウィリアム・H・メイシー/音楽=イーフ・バーズレイ/出演=ビリー・クラダップ、アントン・イェルチン、フェリシティ・ハフマン、セレーナ・ゴメス、ローレンス・フィッシュバーン、ウィリアム・H・メイシー/2014年、アメリカ
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「君が生きた証」、DVD3900円(税抜き)、発売中、発売元・販売元=株式会社ハピネット