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- カテゴリ: 日曜日に観たいこの一本バックナンバー
- 2016年9月25日(日曜)09:00に公開
- 作者: 戸田 照朗
日曜日に観たいこの一本
スポットライト 世紀のスクープ
2002年にカトリック教会の闇を暴いた記事を掲載し、ピューリッツァー賞を受賞したボストン・グローブ紙の実話を映画化。
2001年の夏、ニューヨーク・タイムズ紙の傘下ボストン・グローブ紙に新しい編集局長のマーティ・バロンが着任する。ボストン・グローブ紙は有名紙でありながら、地方紙であり、ボストンの地元紙である。有名紙といえば全国紙である読売や朝日が思い浮かぶ日本の新聞事情とはかなり違う。
親会社のタイムズからやってきたバロンは、ボストン・グローブ紙を「より読まれる新聞にするため」、ゲーガン神父による児童性的虐待事件「ゲーガン事件」を詳しく掘り下げる方針を打ち出す。大きな社会問題であるはずの事件なのに、本格的に調査・取材し、報道した形跡がなかったのだ。日本人である私たちにはなかなかピンとこない問題だが、カトリック教会は「巨大権力」なのだ。ボストン・グローブ紙には地元出身の記者が多い。本音を言えば触りたくない問題なのだ。「よそ者」であるバロンだからこそ指摘できた問題だった。
バロンはこの問題に取り組むことを社主に報告。社主は「教会は強硬に反撃するぞ。うちの定期購読者の53%がカトリック信者だ」と話したが、渋々承諾。親会社から来たバロンの言うことは聞かざるを得なかったのかもしれない。
取材の担当を命じられたのは、独自の極秘調査に基づく特集記事欄「スポットライト」を手がける4人の記者たちだった。デスクのウォルター・〝ロビー〟・ロビンソンをリーダーとするチームは、事件の被害者や弁護士らへの地道な取材を積み重ね、大勢の神父が同様の罪を犯しているおぞましい実態と、その背後に教会の隠蔽システムが存在する疑惑を探り当てる。やがて9・11同時多発テロ発生による一時中断を余儀なくされながらも、チームは一丸となって教会の罪を暴くために闘い続ける。
被害者へのインタビューにより明らかになる被害者の心の傷。大人になっても癒えることはなく、生涯苦しみ続ける。耐えられず、自ら死を選ぶ人も少なくない。そして、神父に狙われる児童は神父の性的指向に合う子どもではなく、親が離婚していて、大人に依存する傾向が強い、貧しい家の子どもたちだということが分かってくる。神父たちは社会的弱者の弱みにつけこんできたのだ。そして、容疑者となる神父の数はどんどんふくらみ、ゲーガン神父一人の特殊なケースだと思われていた事件は異様な広がりを見せていく。
記者たちは、ジャーナリストであるとともに、生活者でもある。面倒な問題に触れなくても、紙面は別の記事で埋められ、新聞は発行され、給与は出る。
取材を始めた記者たちは、自分たちがこの問題からいかに目を背けてきたか、気づくチャンスがあったのに、いかに見過ごしてきたかという現実に直面する。スクープをものにしたからと言って、決して胸を張ってばかりはいられないという自戒もあるのだ。
ジャーナリズムは民主主義にはなくてはならないものだが、正常に機能させることは難しく、不断の努力が必要となる。特に最近は日本のメディアと権力との関係、距離感が気になる。今だからこそ見てほしい作品だと思う。
監督=トム・マッカーシー/出演=マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムス、リーヴ・シュレイバー、ジョン・スラッテリー/2015年、アメリカ
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