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- カテゴリ: 日曜日に観たいこの一本バックナンバー
- 2016年10月23日(日曜)09:00に公開
- 作者: 戸田 照朗
日曜日に観たいこの一本
ルーム
5歳になったジャックが小さな部屋で目を覚ます。部屋には洗面や台所、風呂、冷蔵庫、ベッドなどがあり、ジャックはそれらの家具に「おはよう」と声をかける。狭い部屋には天窓が一つ。外の様子はわからない。ドアには頑丈な鍵がかかっていて、開くことはない。ジャックにとっては、この部屋が世界の全てなのだ。テレビはあるが、テレビに映る世界は架空のものだとママに教えられている。
ジャックは夜になるとクローゼットの中に入って寝る。出てきてはいけないと言われている。そこへ、開かないはずのドアが開いて、男が入ってくる。ニックと呼ばれるその男の顔をジャックは見たことがないが、一週間に一度必要なものを運んでくれる親切な人ぐらいに思っている。
散髪にも行けないので、ジャックは髪が長く一見女の子のように見える。ママは虫歯になっても歯医者に行けず、歯が抜けてしまった。
ある日、ママはニックが失業したことを知り、危機感を覚える。ニックは憎むべき相手だが、一方で食料や水、電気を供給する生命線でもある。
ママはここを脱出することを決心する。そして、ジャックに自分にはジョイ・ニューサムという名前があり、7年前、19歳の時にニックに誘拐されたこと。テレビに映っている世界は本物で、部屋の外には広い世界があること。外の世界にはジャックの祖父と祖母が待っていることを教える。そして、脱出するための作戦を考え出す。
この作品のジャケットをレンタルビデオ店で見かけた時、幸せそうな母子の姿、しかし、監禁という内容だということがわかっていたので、見るのがちょっと憂鬱だった。ところが、脱出劇は前半で終わり、残りの半分は母子のその後が描かれる。ここが、普通のサスペンスとは違う。ニックがその後どんな罪に問われ、どんな罰を受けたのかも描かれない。
生まれてからずっと狭い部屋しか知らなかったジャックは広い世界を怖がる。しかし、小さな男の子の生命力は強くて、新しい世界に徐々に馴染んでいく。女の子みたいだったジャックも、すこしずつ普通の男の子のように遊ぶようになる。
しかし、ママは違った。マスコミや世間の好奇の目にさらされ、追い詰められ、情緒不安定になっていく。せっかく自由を取り戻したのに、辛いことばかりだ。
ママを演じたブリー・ラーソンはアカデミー賞の主演女優賞を受賞し、高い評価を受けた。しかし、私が感心したのはジャックを演じたジェイコブ・トレンブレイの演技だ。まだ小さな男の子なのに、徐々に新しい世界を手にしていくジャックの姿を実に自然に生き生きと演じている。
監督=レニー・アブラハムソン/出演=ブリー・ラーソン、ジェイコブ・トレンブレイ、ジョアン・アレン、ウィリアム・H・メイシー/2015年、アイルランド、カナダ
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「ルーム」、DVD&ブルーレイ発売中、DVD税別3900円、ブルーレイ税別4800円、発売元=カルチュア・パブリッシャーズ、販売元=ハピネット(ピーエム)