横道世之介:DVDジャケットの写真

日曜日に観たいこの一本

横道世之介

 「いつか、あのバカらしい青春時代を書いてくれよな」。以前に居酒屋で大学時代の友人にこんなことを言われた。「オレなんかが書かなくても、もういい本が出てるよ」と紹介したのが、吉田修一の小説「横道世之介」だった。ちょっとお人好しの大学生、横道世之介は「そういえば、こんなやついたよな」と思わせるような、どこにでもいるようないいヤツだ。大事件が起こるわけでもなく、新入生になれば誰にでもおとずれる新しい出会いを通して物語は展開する。それでも、なんだか読み終わるのがもったいないような、そんな居心地の良さをずっと感じていた。

 映画になったのは知っていたが、正直に言うとあまり期待していなかった。というのも、多くの場合、小説を読んだ時の感動以上のものを映像で感じることは少ないからだ。

 それでも、この作品はいい意味で予想を裏切ってくれた。

 映画にするにあたり、小説とは少し構成が変わっているように感じたが、それにより1987年とその16年後がより立体的に描かれている。なによりも感心したのは、小説を読んでいた時のあの居心地の良さは、そのまま映画にも引き継がれていることだ。160分の長い作品なのに、3回も見てしまった。

 

横道世之介の写真

 長崎から上京してきた世之介(高良健吾)は、入学式の日に知り合った倉持一平(池松壮亮)、阿久津唯(朝倉あき)と友達になり、なりゆきでサンバサークルに入会する。それとは別に大教室で人違いがもとで知り合った加藤雄介(綾野剛)。加藤はクールでモテるタイプで、世之介もそのおこぼれにあずかるように、お金持ちのお嬢さん、与謝野祥子と知り合う。なぜか祥子は世之介のことを大変に気に入って、猛アタックをかけてくる。吉高由里子演じる祥子の天真爛漫ぶりが実に可愛らしい。世之介はどこにでもいそうな普通の人間だが、もし特徴があるとすれば、なんでも受け入れてしまうような間口の広さだろう。この二人の友達以上恋人未満のような関係がなんだか微笑ましい。原宿で大きなハンバーガーをかじる二人、世之介の田舎の長崎の港町を訪ねる祥子、二人で過ごすクリスマス、初めてカメラを手にした世之介が祥子をモデルにシャッターを切る、など多くのシーンが心に残っている。なんだか懐かしくて、思い出すだけで泣けてくるようだ。

 監督=沖田修一/出演=高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、綾野剛、伊藤歩、朝倉あき、國村隼、余貴美子、きたろう/2012年、日本

ブルーレイ・DVD発売中、販売元=バンダイビジュアル