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- カテゴリ: 日曜日に観たいこの一本バックナンバー
- 2017年5月28日(日曜)09:00に公開
- 作者: 戸田 照朗
日曜日に観たいこの一本
怒 り
吉田修一原作の同名小説の映画化。監督・脚本は「悪人」と同じ李相日。音楽は坂本龍一が担当している。見終わった後、頭をガーンと打たれたような感じで、この映画のことがしばらく頭から離れなかった。
真夏の八王子の閑静な住宅街で夫婦殺害事件が起きた。窓が締め切られ、蒸し風呂状態の現場には「怒り」の血文字が残されていた。犯人は整形をして逃亡していると思われ、一年が経過した。そして、千葉と東京と沖縄に素性の知れない3人の男が現れる。
千葉の漁港で働く洋平(渡辺謙)は、新宿の風俗店で働いていた娘の愛子(宮﨑あおい)を家に連れ戻した。8年前に妻を亡くしてから男手一つで愛子を育ててきたが、愛子は壊れた人形のように家出を繰り返していた。愛子が帰ってみると、田代という若い男(松山ケンイチ)が父のもとで働くようになっていた。愛子はどこか孤独な影のある田代に惹(ひ)かれていく。
新宿のクラブで直人(綾野剛)と出会った優馬(妻夫木聡)は、直人が行くあてもないことを知り、自宅に連れてくる。優馬は大手通信会社に勤めていて、都会の夜景が美しく見える高級マンションに住んでいる。優馬にはホスピスに入院している末期ガンの母がいた。
男とのトラブルが絶えない母とともに、高校生の泉(広瀬すず)は沖縄の離島に移り住んできた。島で友達になった少年と泉は、無人島に籠るバックパッカーの田中と名乗る男(森山未來)と遭遇した。
犯行現場での奇妙な行動や、整形しての逃亡など、世田谷一家殺害事件や、船橋の外国人講師殺害事件など、現実に起きた事件を下敷きにしている感じがする。
物語は3つの場所の3つの話が同時進行のように進む。怪しいといえば、3人とも怪しい。だが、サスペンスとしての謎解きは、この作品では脇役のように思える。むしろ、物語の核心は3人の男が体現しているような、世の中の閉塞感や矛盾。孤独感や疎外感。無力感。そして、それらに対する言いようのない「怒り」。沖縄のそれは、沖縄という土地の「怒り」でもあるように思えた。私たちはこのことをもっと真剣に考えなければならない。
3つの物語はまた、3つの愛情の物語でもある。人を疑うのは簡単だが、最後まで信じ抜くことは、こんなにも難しい。
それぞれの物語には主役級の俳優陣が登場し、圧巻の演技を見せている。特に宮﨑あおいと渡辺謙の演技には、思わず「すごいなぁ」とうなってしまった。
監督・脚本=李相日/音楽=坂本龍一/出演=渡辺謙、宮﨑あおい、松山ケンイチ、妻夫木聡、綾野剛、森山未來、 広瀬すず、佐久本宝、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴/2016年、日本
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「怒り」DVD通常版、発売元・販売元=東宝、発売中、税別3800円。